2015年12月5日土曜日

学問と芸術の至福の融合


[三浦篤]
 11月7日、8日の2日間にわたって日仏会館で開催されたシンポジウム「芸術照応の魅惑 近代パリにおける文学、美術、音楽の交差」は、いろいろな意味で初の試みであるといささか自負している。

以下の日仏会館イベントページよりプログラムにアクセスできます。
 
 19世紀から20世紀にかけて、パリを舞台に芸術家の交友、作品の影響の両面において、文学、美術、音楽など諸芸術が密接に交流していた。それ自体はよく知られている事実だが、その豊かな成果は詳しく分析、解明されているとは言い難く、新たな視点や問題意識から芸術照応の内実にアプローチしてみようと考えたのである。3つの学会(日仏美術学会、日本フォーレ協会、日本フランス語フランス文学会)に協力をお願いし、さらに外国人の専門家も招聘し、文学、美術、音楽の各分野から意欲的な研究者に集まっていただいた。発表者には、少なくとも二つの異なる芸術領域にまたがる主題を取り上げるようお願いしていた。 
 詳しい内容はプログラムを見ていただきたいが、2日間にわたる発表で扱われた主な芸術家の名前をここに列挙してみよう。グランヴィル、ドーミエ、ベルリオーズ、ワーグナー、ゾラ、ファンタン=ラトゥール、ドビュッシー、ヴァレリー、ラヴェル、マティス、ザオ・ウーキー、ヴァレーズ(プーランクについての発表が発表者の健康上の理由でキャンセルされたのは残念であった)。これだけでも、シンポジウムの多様な広がりが自ずと理解できるだろう。2日目の全体討議で問題がさらに広げられ、深められ、諸芸術の意外な交差、興味深い論点が続出したのは、このテーマがまだ充分に研究されていないことを物語っている。個人的には19世紀フランスにおけるワーグナーの存在の大きさを改めて認識できたのは収穫だった。またよくありがちな文学と美術の相関関係に留まらず、そこに音楽を加えることで大きく世界が広がったのも予想を超えていた。欲をいえば、舞台芸術や映画などもあればさらに面白かったかもしれないが、それは2日間の枠組みを逸脱する規模になるので、今後の課題として残しておきたい。


 そして、シンポジウムの真打ちこそは、最後に置かれたコンサートであった。サロン風の雰囲気の中で、ロマン派からブーレーズまで、選り抜きのフランス歌曲(詩と音楽の融合)とドビュッシーのチェロ・ソナタが聴けたのは、他では体験できない至福のひとときで、それは同時にシンポジウムが学問と芸術の照応の場にも変容した瞬間でもあった。コンサートを通して、全体テーマを別の形でたどり直せたのであるから。ともあれ、こんな贅沢なイヴェントを開催できたことを心から喜んでいる。


 付け加えておくと、今回の企画の起点は、20116月に日本フォーレ協会の講演会に招かれ。「マネと音楽」についてお話したことにあった。会長の野平一郎先生のピアノ演奏つきという何とも贅沢な講演会だったのだが、美術と音楽の関わりというそれまであまり意識していなかった問題が私の中に俄然浮上してきたし、講演と演奏のインターフェイスという新しい試みがとても刺激的だったことをよく覚えている。したがって、今回のシンポジウムは、私にとってこの講演会の延長として自然に構想できたのだ。出会いとはまことに不思議なものである。

2015年11月30日月曜日

「日本が愛した印象派」展英語版カタログが“The Financial Times best books of 2015 (Art)”に選出

[井口俊]

 2015年10月よりボンの国立芸術展示場で開催されている、「日本が愛した印象派」展英語版カタログJapan's Love for Impressionism(Prestel, 2015)が、“The Financial Times best books of 2015”のArt部門の一冊に選出されました。
 
 展覧会の会期は2016年2月21日までとなっておりますので、皆さまぜひ足をお運びください。また、展覧会の詳しい紹介は、三浦先生のブログ記事をご参照ください。

「絵画を楽しむ技術(メチエ)を語る―『名画を見る眼』から『まなざしのレッスン』へ」高階先生、三浦先生トークセッション傍聴記


[農頭美穂] 
 20151019日、東大駒場キャンパスにて、高階秀爾先生と三浦篤先生のトークセッションが東京大学出版会主催で開催された。「絵画を楽しむ技術(メチエ)を語る『名画を見る眼』から『まなざしのレッスン』へ」と題にあるように、この対談は先駆的な概説書の著者であるお二人から絵画鑑賞、そして美術史研究の醍醐味についてお話をいただく好機会となった。会場には専門家から美術史の学生、また一般の読者の方々まで多くの美術ファンが集い、熱気に包まれていた。
 本対談は国内外の美術史学を牽引する両先生の師弟対談という大変貴重な席でもあった。高階先生の『名画を見る眼(正・続)』『近代絵画史(上・下)』から三浦先生の『まなざしのレッスン1 西洋伝統絵画』、そして3月に出版された『まなざしのレッスン2 西洋近代絵画』へと繋がる系譜とその誕生に纏わるお話が語られ、私自身も美術史を学んだ一読者として感慨深く拝聴した。
 『名画を見る眼』に関して高階先生は絵画で語られていることを「読み解く」楽しさを目指されたといい、「細部」を見て「記述」することが新しい発見につながると語られた。また三浦先生も同書に「作品をディスクリプションする」重要さを教わったという。これは私自身三浦ゼミで学んだものであるし、そして駒場の学部生向けの「美術論」の講義、またその教科書『まなざしのレッスン』の根底に流れている精神であると思う。
 作品と向き合う際には徹底的に「細部」に注目して観察し、分析する。三浦先生は「作品を文章化しないと分からないことがあるのではないか」とも語られたが、その行為には非常に得るものが多く、新たな発見や重要なヒントをもたらしてくれ、また作品研究のはじまりとなることもあるように思う。美術史研究には資料渉猟など忍耐が要求されることも多いが、作品の「細部」の謎に惹かれたことが端緒となり、その解明に近づこうとする探究のこころが研究のひとつの原動力となるし、またそれによって同好の士が結び付けられることもあるのではないか。
 高階先生がミステリー小説になぞらえてパノフスキー流の作品解明の魅力について語り、またエーコの「開かれた作品」の概念に基づく作品解釈についてオープンエンディングの演劇に喩えて語られた一幕もあり、改めて彼らの方法論をその啓蒙的なご著書によって日本に紹介された先生の業績を思い感嘆させられた。三浦先生が指摘されたように美術史の方法論において様々な(時に実験的な)試みが成され多様な解釈が実現されていくなか、開かれた立場で作品と如何に向き合っていくのかが我々に問われているのだろう。改めてお二人のご著書を再読し、美術史研究の醍醐味を堪能しながら考え直してみたいと思う。


 対談の後半はスライドで実際に作品が投影されるなかで行われ、両先生の息の合ったセッションによって「細部」を見てまた「比較」する絵画鑑賞のメチエが披露された。主に『まなざしのレッスン』と『名画を見る眼』からの図版を取り上げる形で展開され、ルネサンスから現代に至る幅広い作品に対する両先生の自由でかつ含蓄深いご指摘が聞くことができる、大変貴重で刺激的な時間であった。プッサン《フローラの王国》の細部のモチーフや構図に対するコメントから始まったこのセッションであるが、個人的にはジェリコー《メデュース号の筏》とキーファー《シベリアの王女》が並べられたスライドが印象的であった。『まなざしのレッスン2』でも紹介された作品だが、この二作品に共通する「崇高の美学」を見出し、時間と様式を超えた物語画の変容を示す例として提示してくださる先生の熟練したメチエはまさに脱帽物。両先生にはとても及ばないが、自分も日々その作品比較のリソースを蓄積していくことで作品を見る眼を磨きたいと気持ちを新たにさせられた。

2015年11月16日月曜日

「日仏交流を通した日本の美術史学の構築」


[三浦篤]

 そんなタイトルの論文の執筆依頼を受けたのは1年半前のことである。パリのINHA(国立美術史研究所)の雑誌Perspectiveの編集主幹をしているAnne Lafondからの要請。彼女は2012年にパリで開催されたEcole de printempsで事務局長の大役を務めた優秀な女性研究者で、18世紀美術史を専門としている。何を思いついたのか、最初は日本の美術史学のことを紹介してくれという話だったが、あまりに大きすぎるテーマに躊躇っていると、日仏関係に限定しても良いということで、それならばと引き受けて、Perspective最新号に発表することができた。« La construction de l’histoire de l’art au Japon à travers les échanges franco-japonais », http://perspective.revues.org/5700


 とはいえ、論点をかなり欲張ったので長めの論文になった。明治以来の日本における美術史学の成立過程と現状(西洋美術研究と日本・東洋美術研究が並立する歴史)、日本におけるフランス派美術史研究者の業績やフランス美術に関する展覧会の紹介、さらにはジャポニスム研究と日本近代美術研究に焦点を当てた日仏美術交流史研究の現在などだが、特に最初のふたつは欧米ではあまり紹介されていないので意味があるかと思う。


 
 海外で講演したり、シンポジウムに参加したりするたびに思うことだが、日本にはこれだけ質の高い研究蓄積があるのに(美術史のみならず人文科学全体について言えることだ)、日本語で書かれているというだけの理由で、グローバルな世界で知られていないのは本当に残念なことだ。もちろん、外国語による発信が容易でないのは当然だが、ケースに応じて様々な手立てを講じる(自分で発表する、通訳者、翻訳者を用いる)とともに、機会があれば日本語でも発表したいとも思う。外国語で発信するのと同時に、日本語の国際的存在感を高める努力があってもよいはずだ。また、外国語を使う場合でも、相手の母国語ではなく、双方にとっての外国語である第3の言語で話せば、ある程度対等になることもある(現在ドイツで開催中の展覧会「日本人の愛した印象派」で英語を使ったのはその例であった)。つらつらと、そんなことを考えるこの頃である。

2015年10月18日日曜日

ドイツのボンで「日本人が愛した印象派」展開幕

[三浦篤]

Japans Liebe zum Impressionismus, Von Monet bis Renoir 
8. Oktober 2015 – 21. Februar 2016
Bundeskunsthalle, Bonn 
【1116日追記(ブログ管理者)
上にあるドイツ語の展覧会名をクリックすると、日本語の紹介ページへジャンプします。



 ようやく肩の荷を下ろしたという心境です。5年間かけた準備がようやく実を結び、108日にボンの国立芸術展示場で展覧会が始まりました。日本の美術館、コレクションに所蔵される近代フランス絵画77点に、彫刻10点、浮世絵版画19点(ジヴェルニーのモネの浮世絵コレクション)、日本近代洋画19点、その他の作品や資料を加えて構成したもので、このような展覧会はドイツのみならず、ヨーロッパでも初めての開催になります。いや日本においてすら、これだけの内容の展覧会を開くことは決して容易ではないでしょう。

 
 ヨーロッパでは知られていない、日本が所蔵する印象派を始めとするフランス近代絵画コレクションの優れた作品(バルビゾン派、印象派からポスト印象派、ナビ派まで、すなわちコロー、ミレー、クールベ、マネ、モネからルノワール、セザンヌ、ゴーガン、ゴッホ、ボナールまで)を展示すること。それが本展の第1の目的ですが、実は他にも重要なポイントがあります。 

 ひとつは、このような日本のコレクションがどのようにして形成されたのかという、その歴史的な経緯を紹介することです。日本が大きな経済発展を遂げた19世紀末から両大戦間の時期に、松方幸次郎や大原孫三郎など日本の実業家たちは、欧米のコレクターたちと肩を並べる素晴らしいコレクションを作り上げました。さらに、第2次世界大戦後にも経済の発展と歩調を合わせるかのように、いくつもの重要なコレクションが出来上がっていったのです。展覧会では主要なコレクターのほかに、重要なフランス近代美術コレクションを所蔵する美術館(国立西洋美術館、大原美術館、ブリヂストン美術館、ひろしま美術館、東京富士美術館、ポーラ美術館、吉野石膏コレクションなど)も紹介しています。

 もうひとつの大きなテーマは、日本美術とフランス美術との密接な交流にほかなりません。19世紀半ばの日本の開国以来、浮世絵版画がヨーロッパに渡り、フランスの印象派、ポスト印象派の画家たちに衝撃を与え、彼らの芸術の大きな養分となったことは、いわゆるジャポニスムとしてよく知られています。他方、ジャポニスムにやや遅れて日本にも西洋絵画が根づき始めます。特に19世紀末から20世紀初めにフランスに留学した黒田清輝とその弟子たちが、フランス絵画の外光派アカデミスムや印象派の様式を我が国に移植したのです。浮世絵版画から印象派へ、印象派から日本近代洋画へという双方向的な日仏美術交流の歴史もまた、本展の中で示しており、日本でこれほど印象派絵画が好まれるのは、両国の美意識のつながりが濃厚であるのも大きな理由だと想像されます。そして、近代日本における印象派評価には、実はRichard MutherやJulius Meier-Graefeなど、同時期のドイツの美術史家の著作が影響を与えていたことも付け加えておきたいと思います。


 日本から遠く離れたボンで幸いにも展覧会を見ることができた方には、浮世絵版画、印象派絵画、日本近代洋画の美的な共鳴、交感をぜひとも味わっていただきたいのです(特にモネの部屋と最後の部屋)。この展覧会が画期的なのは、ヨーロッパでは知られていない日本の優れたフランス近代絵画コレクションを紹介することに留まりません。印象派絵画がジャポニスムや日本近代洋画と濃密な関係を持つことによって、日本のフランス近代絵画コレクションがより豊かに形成されたたことを示すことにもあるのです。それこそが本展の歴史的な意義にほかなりません。


 本展の実現に協力して下さったすべての皆さんに、心より御礼を申し上げたいと思います。まず、展覧会の意義を理解し、貴重な作品をお貸しいただいた日本の美術館には、どんなにお礼を申し上げても足りません。展覧会を主催された国立芸術展示場(館長のライン・ヴォルフスさん、ベルンハルト・スピースさん、スザンヌ・アンネンさん)の献身的なサポートにも、心より感謝申し上げます。そして、今回のCuratorial Teamドイツ側のベアーテ・マルクス=ハンセンさんとデットマー・ウエストホフさん、日本側の熊澤弘さんと薩摩雅登さん)にも感謝の念を捧げ、この喜びを分かち合いたいと思います。なお、この展覧会の最初の企画は、国立芸術展示場前館長のロバート・フレックさんとウエストホフさんが、数年前に私の大学のビュローを訪ねて下さったときから具体化したことも、申し添えます。他にも、在日ドイツ大使館などご協力下さった諸機関、個人の方々など、すべてのお名前を挙げることはかないませんが、深く御礼を申し上げます。

 なお、本展覧会にはドイツ語版のみならず、英語版のカタログもありますJapans Liebe zum Impressionismus [Japan’s Love for Impressionism],Prestel, 2015.

【10月25日追記(ブログ管理者)
三浦先生の日本語による展覧会紹介の動画リンクを掲載しました。
https://vimeo.com/142262355

2015年10月1日木曜日

高階先生、三浦先生トークセッションのご案内

[井口俊]

2015年10月19日(月)の16時より、東京大学駒場キャンパスで「絵画を楽しむ技術(メチエ)を語る――『名画を見る眼』から『まなざしのレッスン』へ」と題された、高階秀爾先生と三浦先生のトークセッションが行われす。
 お申し込み方法等、詳しい情報は以下の東京大学出版会のウェブサイトよりご確認いただき、ご興味のある方はぜひ足をお運びください。
http://www.utp.or.jp/topics/2015/09/10/event2_83031/
                                   

2015年6月14日日曜日

山梨県立美術館 見学記

[玉生真衣子]

 先日、三浦先生をはじめゼミのメンバーで山梨県立美術館を訪れた。当館には、三浦ゼミOBの小坂井さんが学芸員として務めており、以前にも「生誕200年ミレー展」(2014年)を見学しにゼミのメンバーで訪問したことがある。この日は天候にも恵まれ、電車で新宿から甲府まで1時間半ほどの移動中、車窓からの景色も楽しむことができた。甲府駅からはバスで美術館へ向かった。

 当館では「夜の画家たち―蝋燭の光とテネブリスム」という展覧会が開催されている。展覧会の出発点として、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの《煙草を吸う男》(1646年、東京富士美術館蔵)が展示されていた。本作は暗い背景の中、煙草の火によって人物の表情が照らし出され、印象的に浮かび上がっており、まさにテネブリスム(暗闇主義)の手法を効果的に用いているといえる。このテネブリスムというテーマのもと、江戸時代の銅版画や、歌川広重や歌川国芳の浮世絵、高橋由一や山本芳翠らの洋画、小林清親らの版画などが展示されていた。浮世絵では象徴的に月のモティーフによって表わされていた夜の情景が、時代が下るにつれて西洋の表現を取り入れて自然主義的に明暗表現によって描かれるようになる。このように、江戸から明治期に至るまでの画家達が、あらゆる闇と光の世界をいかに描写し、それをいかに自らの表現に効果的に用いたのかを知る良い機会となった。またこれらの作品を通じて改めて感じたことは、闇と光に対する感覚が、単一的な明るい光に囲まれ、深い闇の暗さを感じることのない現代とは大きく異なるということである。展示会場入り口の照明を落とした空間には、蝋燭の光を模した電球が足下に点々と設置されて淡い光を放っていたが、なるほど、画家たちが魅了されてきた闇と光に対する感覚を思い起こさせるための、ひそかな導入となっていたのである。

 また企画展の後は、国内随一のミレーのコレクションのほか、バルビゾン派の風景画などの作品群が展示された常設展を鑑賞した。国内の常設展示で、これほど質の高いフランス近代絵画をまとまった形で見ることのできる場はなかなか無い。それら作品を目の前に様々に解釈を述べ合い、議論をするなかで、ひとりで図版に向き合っているだけでは得られない発見があると改めて感じた。

 展覧会を見学した後は、三浦先生、小坂井さんを含め皆で夕食を共にした。山梨のワインやみずみずしい野菜などどれも美味しく、会話を楽しみながら頂いた食事は、見学会の良い思い出となった。このように、ゼミの卒業生で現在活躍されている先輩方にお会いする機会は、私たち現役の学生にとって非常に刺激となり、勉強になる。今後もこのような機会を多く設けて行けたらと思う。




2015年5月21日木曜日

『まなざしのレッスン2 西洋近現代絵画』(東京大学出版会)


[三浦篤]

 既に2ヶ月前のことになりますが、東京大学の講義をベースにして西洋の近現代絵画史に関する本を出版しました。2001年に出版した『まなざしのレッスン1 西洋伝統絵画』の続編です。19世紀から今日まで200年余りの西洋絵画をテーマ別に解説した内容で、通常の概説書とはかなり違う独自の工夫を凝らしてみました。印象派以外の作品、特に20世紀絵画が難しいと思っている人に勧めたい本です。5月末発行の雑誌『UP』6月号(東京大学出版会)に自著解題のような文章を書いたので、読んでみて下さい。

 また、御茶ノ水のブック・カフェ「エスパス・ビブリオ」で、6月30日にトーク・イヴェントも行います。興味のある人は足を運んで下さい。

http://www.superedition.co.jp/blog/2015/05/post-40.html



2015年2月1日日曜日

芸術文化勲章シュヴァリエ叙勲

[三浦篤]

このたびフランス共和国より芸術文化勲章シュヴァリエを受勲いたしました。
詳しくはフランス大使館および東京大学大学院総合文化研究科の下記HPをご覧下さい。

2015年1月21日水曜日

パリ社会科学高等研究所(EHESS)三浦篤先生講演・セミナー報告

[松井裕美]

 2014年11月、パリ社会科学高等研究所(EHESS)にて、三浦篤先生による講演およびセミナーが開催された。2014年11月12日・13日・19日・20日の計4回にわたるこの企画は、EHESSの日仏財団により運営された。現地でのコーディネーターを務めさせていただいた経験から、会の報告をさせていただきたい。

 本講演会およびセミナーは、様々な学問分野の交流、さらには各分野において世界的に活躍する研究者と、若手の研究者の交流を促し、将来の新たなる研究の可能性を開拓するという日仏財団の理念に基づき企画されたものである。12日と20日の2日間は、EHESSにおいて、人類学や美学などさまざまな視点から美術を研究する2つの修士課程のセミナー、「新たなる人類のかたち:革命と保守主義のあいだで(19世紀―20世紀)」(エリック・ミショー教授)ならびに「芸術と流用:人類学的総括」(ブリジット・デルロン教授)において、三浦篤先生の授業が行われた。前者では1878年から1914年にパリに留学していた日本人画家について、後者では日本の美術に魅了されたフランスのアカデミスムの画家ラファエル・コランについての講義が行われた。13日には4人の博士課程の方々(土山陽子さん、レア・サン=レイモンド、デボラ・レヴィ、サビーヌ・パセデル)の発表と各々への三浦先生からのコメントを通して、フランスと日本の相互的な関係のなかで形成され発展するような文化を研究するにあたって心がけるべき方法論、観点を確認した。また19日には、「エクリチュールの人類学(Anthropologie de l'écriture)」をテーマに研究を展開しているベアトリス・フランケル教授をディスカッサントとして迎えながら、19世紀フランス絵画において認められるエクリチュールと日本美術との関係性に関する三浦先生の講演が行われた。



 これら一連の講義は、日本美術とフランス美術の関係性の美術史的研究を通して、日本の研究者とフランスの研究者、美術史研究と人類学や社会学、美学などの分野との交差する地点となるような機会を築く企画であったといえる。日本の研究者や学生がフランスで積極的に研究のプロジェクトに関り、また他分野の研究者との共同研究、共同企画の可能性を見出すことができるような時間と空間をつくりだす、そのような日仏財団の試みは、今後豊かな成果を日仏双方の知的分野にもたらすに違いない。その美術史の分野における最初の試みとして立ち上げられた本企画に快くご賛同して下さった三浦篤先生、また本企画の運営・構想を行ってくださった日仏財団所長セバスチアン・ルシュヴァリエ、財団のプロジェクト・マネージャーである臺丸謙さんに、この場を借りまして心よりお礼申し上げます。