2015年6月14日日曜日

山梨県立美術館 見学記

[玉生真衣子]

 先日、三浦先生をはじめゼミのメンバーで山梨県立美術館を訪れた。当館には、三浦ゼミOBの小坂井さんが学芸員として務めており、以前にも「生誕200年ミレー展」(2014年)を見学しにゼミのメンバーで訪問したことがある。この日は天候にも恵まれ、電車で新宿から甲府まで1時間半ほどの移動中、車窓からの景色も楽しむことができた。甲府駅からはバスで美術館へ向かった。

 当館では「夜の画家たち―蝋燭の光とテネブリスム」という展覧会が開催されている。展覧会の出発点として、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの《煙草を吸う男》(1646年、東京富士美術館蔵)が展示されていた。本作は暗い背景の中、煙草の火によって人物の表情が照らし出され、印象的に浮かび上がっており、まさにテネブリスム(暗闇主義)の手法を効果的に用いているといえる。このテネブリスムというテーマのもと、江戸時代の銅版画や、歌川広重や歌川国芳の浮世絵、高橋由一や山本芳翠らの洋画、小林清親らの版画などが展示されていた。浮世絵では象徴的に月のモティーフによって表わされていた夜の情景が、時代が下るにつれて西洋の表現を取り入れて自然主義的に明暗表現によって描かれるようになる。このように、江戸から明治期に至るまでの画家達が、あらゆる闇と光の世界をいかに描写し、それをいかに自らの表現に効果的に用いたのかを知る良い機会となった。またこれらの作品を通じて改めて感じたことは、闇と光に対する感覚が、単一的な明るい光に囲まれ、深い闇の暗さを感じることのない現代とは大きく異なるということである。展示会場入り口の照明を落とした空間には、蝋燭の光を模した電球が足下に点々と設置されて淡い光を放っていたが、なるほど、画家たちが魅了されてきた闇と光に対する感覚を思い起こさせるための、ひそかな導入となっていたのである。

 また企画展の後は、国内随一のミレーのコレクションのほか、バルビゾン派の風景画などの作品群が展示された常設展を鑑賞した。国内の常設展示で、これほど質の高いフランス近代絵画をまとまった形で見ることのできる場はなかなか無い。それら作品を目の前に様々に解釈を述べ合い、議論をするなかで、ひとりで図版に向き合っているだけでは得られない発見があると改めて感じた。

 展覧会を見学した後は、三浦先生、小坂井さんを含め皆で夕食を共にした。山梨のワインやみずみずしい野菜などどれも美味しく、会話を楽しみながら頂いた食事は、見学会の良い思い出となった。このように、ゼミの卒業生で現在活躍されている先輩方にお会いする機会は、私たち現役の学生にとって非常に刺激となり、勉強になる。今後もこのような機会を多く設けて行けたらと思う。