2012年5月13日〜19日はパリにいた。今年で10周年を迎えた国際美術史コンソーシアム「エコール・ド・プランタン(あるいは春のアカデミー)」に参加するためである。この組織の沿革と内容、および一昨年のフィレンツェ大会、昨年のフランクフルト大会については、昨年まで活動していたUTCPで紹介したことがあるので、ここでは繰り返さない。
http://utcp.c.u-tokyo.ac.jp/blog/2010/07/miura-atsushi-on-ecole-de-prin/
http://utcp.c.u-tokyo.ac.jp/blog/2011/05/post-452/
簡単に言えば、世界の美術史研究者十数人で作っている非公式な親睦会のような組織で、毎年どこかの場所に1週間集まり、テーマを決めて数十人の大学院生に研究発表をさせ、教員も含めて濃密な交流を行う催しである。ただし、私以外は皆欧米の研究者なので、共通言語は英仏独伊の四つ。日本人にとってはハードルが高いが、昨年から正式に加わることができて、学生たちも英語やフランス語で発表している。
今年も日本枠で2人、フランス枠で1人、日本人若手研究者が発表し、皆貴重な体験をしたと思う。私も司会の一部を担当した。この大会では、発表の内容や質はもちろん重要であるが、同じくらい大事なことは、その後の質疑応答や議論に対応、参加できるかどうか、コーヒー・ブレイクやカクテル・パーティーでさらに交流の輪を広げられるかどうかであろう。そのためには、単に外国語運用能力があればよいというものではない(むろん、それすらも簡単なことではないが)。美術史研究に対する幅広い興味と関心の持ち方、日本を大事にしながらもそのマージナルな位置を抜け出ようとする積極的なメンタリティの醸成など、実はさまざまな条件が備わっていなければ「国際交流」など絵に描いた餅にすぎなくなる。
特に、今年の大会は「芸術と知 Arts et Savoirs」(http://www.inha.fr/spip.php?article3774)がテーマで、西洋文化の広がりの中でイメージの在り方を論じる発表が多かったので、元来文化を共有しない日本人にとってはさらに難度が高いという印象を受けた。言葉を換えれば、視覚文化研究(ヴィジュアル・スタディーズ)に近い方向性になっていたのだが、美術史学にとってこの道がすべてではないとはいえ、方法論的な多様性を踏まえて議論する必要がますます高まっているということである。
いずれは、日本でも大会を開催したいと思っている。それまでに、若手研究者がレベル・アップしていることを期待したい。