2012年6月5日火曜日

国際シンポジウム「時の作用と美学」を終えて

[陳岡めぐみ]

つい先日、担当していた「ユベール・ロベール―時間の庭」展(国立西洋美術館)が閉幕し、巡回先の福岡市立美術館へ作品を搬送してきたところである。フランスの旧体制末期を生きた画家ユベール・ロベールの名前を耳にしたことのある方は、一般には少ないかもしれない。古代遺物を主な着想源として数々の空想的風景画を描き、かつて「廃墟のロベール」の名を恣にした画家である。今回のシンポジウム(4/14:国立西洋美術館、4/15:東京日仏学院)は、国内ではじめてロベール芸術を紹介するこの展覧会の開催にあわせて企画した。ロベールに直接焦点を合わせるのではなく、人や芸術に時がもたらす作用と美学をめぐる議論を通して、作品の時代背景や今日的意義を探ることが趣旨である。


共同企画者となったラディック氏とのご縁もあり、三浦先生には早い段階から相談に乗っていただいた。プログラムの詳細はPDFを参照していただきたいが、発表者は勿体ないほどに重厚な布陣となり、当日はきわめて密度の濃い発表が続いた。2日間にわたって古代遺物から現代アートまで実に多彩なテーマが取り上げられ、閉会の辞を聞く頃には、古代から現代まで続く長い旅を終えた、あるいはマラソンを完走したような感があった。
惜しむらくは、今回、ルーヴル美術館のファルー氏とともにフランスから招聘していたパリ第4大学のジョベール先生が学長としてパリを離れられない事情が生じ、やむなく来日できなくなったことである。芸術と時間をめぐる議論の中で、古代と並んで大きなトポスとなるゴシック復興をめぐって、近世の英仏の状況が論じられるはずであった。それでも―手前味噌で恐縮だが―、個々の発表でこれほど多岐にわたる題材を扱いながら、総合討論に向けてこれほど相互の論点を引き出せ合えたシンポジウムは稀であったように思う。素晴らしい発表内容をご準備くださった先生方、そして長時間お付き合いただいた会場出席者の方々に、この場をお借りして、企画者として心よりの謝意をお伝えしたい。