6月28日、ロンドンで行われたAAHサマー・シンポジウムに参加した。 AAH( Association of Art Historians ) は学術雑誌Art Historyを刊行している 英国に基盤を置く学会組織であり、美術史関係の研究者、学芸員及び学生を会員としている。AAH会員による毎年恒例のサマー・シンポジウムでは、博士課程の学生が主に発表する。「芸術と科学」をテーマとする今年度のシンポジウムでは、薬のパッケージの歴史や立体物の視覚的理解に関する現象学的考察など、従来の美術史にとらわれない多様なテーマの発表が行われた[大会サイト]。
会場は王立美術アカデミーの一角にあるリネン研究所の一室。かつてダーウィンが進化論を発表した同じ部屋で研究発表をできる喜びに、思わず心が躍る。
この度は個別のデッサンの作品分析を通して、ピカソの解剖学的知識と1907年の作品における身体イメージとの関係性について論じることで、この画家のキュビスム様式の黎明期に関して新たな展望を開いていくことを試みた。質問をして下さった方の中には、プログラムの内容を見て私の発表を聞きにエジンバラより聴講に来てくださった20世紀美術研究者もいらっしゃり、具体的な資料に関する非常に有意義な情報交換をすることができた。
フランスの大学の博士課程に進学して以降は、レポートや授業での発表の機会が極端に減る。博論という長期的な目標に向かいつつも、限られた期間のなかで研究をある一定のかたちにし、多くの人に意見を頂いて視野を広げていくためには、常に自ら努力して発表の場に乗り出す積極性と、そこでの対話を築く柔軟な姿勢が望まれることとなる。研究会のテーマが自らの関心に近ければ近いほど、必然的に研究の関心の交わる幸運な出会いに恵まれる可能性は高まるだろう。今後私に残された課題はあまりにも多くまた大きいが、同じくヨーロッパに留学する友人達と励ましあいながら、知ること、探求すること、そして共に議論し知を分かち合うことの喜びを、これからの研究の進展に繋げていきたい。