[齋藤達也]
フランス留学一年目のアーカイヴ調査体験について簡単に紹介したい。ただし私の研究対象である美術批評家エルネスト・シェノーの調査を通じたものであるので、幾分か調査方法に偏りがあるかもしれない。
まずは資料の所在を突き止める必要がある。アーカイヴ資料検索エンジンとしてはCalamesとAGORHAが有用であった。また各種大量の二次文献の索引に目を通し、シェノーに関わる情報を集めた。モロー美術館所蔵のシェノーによる書簡の存在は、この作業によって知り得た。
資料探索ではむろん紙の目録を徹底的に調べる必要もある。これはArchives nationalesで特に求められる方法だろう。19世紀の美術関係者の書簡を大量に保管するFondation Custodiaは目録を部分的にウェブ上で公開しているが、コレクションの全容を知るには現地に赴かなくてはならない。 フランス短期滞在でArchives nationalesやArchives du Louvreの調査をする場合には、ウェブ上で公開されている大まかな目録と整理番号で、事前に求める資料のありかの当たりをつけておくと効率的だろう。
資料は写真撮影することになるだろうが、その場で写真のできを確認することで失敗を防ぎたい。閲覧室は往々にして暗いからだ。PCに写真を移行したら、その日のうちに整理し、整理番号と写真とを対応させるのが理想である。通常、整理番号は資料の保管されている箱のレベルで付されているが、箱の中のファイルごとのレベル(Dossier)に付けられたタイトルも記録する。フランスでのMémoireやThèseでは、資料の所在をできる限り詳細に記述することが求められるからだ。
[左:書簡 右:Dossier]
撮影した手稿は文字に起こす必要がある。フランス語を母語としない者にとっては、トランスクリプションは最も困難な作業のひとつである。この過程ではどうしてもフランス人の助けを借りることになる。
フランスにおけるMémoireやThèseでは、Annexes(付帯資料)が重視される。私の場合を述べれば、それはシェノー執筆の批評記事一覧(700本超)および未刊行書簡集となる。
書簡などの資料を整理することは大事な作業であるが、むろんそれ以上に重要なことは、そうした資料によっていかに歴史を再構築するかというところにある。無数に収集した資料の中から意味のある記述を見出した時の喜び、大げさに言い換えれば、誰も知り得なかった歴史的事実に出会った瞬間の感動は、何事にも代え難い。二次文献に敬意を払いつつも、情報の究極的な出所を常に意識することが、歴史学としての美術史には必要なのだと思う。