[申旼正]
今回のエコール・ド・プランタン(第12回、2014年6月9日—13日、東京)では、「美術史における枠組み」というテーマに基づき、様々な議論が行われた。国境と時代、ジャンルを超えた多様な発表やそれに対する質疑を聞くこと、またそれぞれの発表が持つ意義を「枠組み」という大きなテーマの中で考えることは興味深い経験であった。各国の研究者たちとアイデアや情報を交換し親交を結ぶことによって、視野を広げることもできた。
この度は私も3日目に発表の機会をいただき、「韓国美術と李應魯–西洋美術と東洋美術の融合」というタイトルで、韓国系フランス人画家の李應魯(イ・ウンノ、1904—1989)に関する発表を行った。李應魯は、時代的には近現代を、地域的には韓国と日本、そしてヨーロッパを生きた人物である。またその表現は、韓国の伝統絵画からはじまり、日本画、洋画の写実主義や西欧の抽象表現主義にいたるまで多岐にわたっている。戦前は日本植民地支配の下で、戦後はフランスに渡り、混沌と無秩序の西洋史の中で作品を通して社会に向き合おうとした画家なのだ。今回の発表では、画家李應魯の歴史認識を彼の西欧経験や作品と関連づけて多角的に論じたかった。しかし、発表を準備する過程は決して順調なものではなかった。2013年9月にパリ留学を開始してからわずか半年で、適切な資料を発見するには情報が足りなく、他の文献を参考にするにはフランス語能力が足りず、心の底から満足できる発表ではなかった。しかし、質問やコメントをもらうことによって研究における新しい課題が浮き彫りとなり、研究生活を続けていく上での貴重な経験となった。
学会に参加する際にはいつも感じるが、会場で他の研究者の発表を聞き、その成果を確認することは、研究生活に活力と刺激を与えてくれる。特に今回のエコール・ド・プランタンでは高階先生をはじめ素晴らしい先生方の講演を聞くことができ、記憶に残る一週間となった。幅広い知識に基づき、多様な資料を提示しながら、対象を自由自在に取り扱う手際に感銘を受けた。自分の関心事と聴者の興味のあいだでバランスをとり、研究の重要性を理解し易く伝える、その発表のテクニックについても考えさせられた。
日本を訪れた同年輩の研究者たちと親しくなり、一緒に東京を楽しめたことも忘れられない思い出である。一緒に原宿の街を歩き、六本木のウサギカフェを訪れ、いろいろなことについて自由に話す中で友情を深めることができた。研究上の同僚であり、友達として大事にしたい関係である。
もはや研究者の国際化は普通のこととなっている。今日、われわれは異文化を外国語で研究し、それを海外で発表することに何の違和感も感じない。このような状況に合わせて、研究者は国際的な感覚を身につける必要があるだろう。外国語の学習や、異なる文化や価値観を偏見なく受け入れられる態度が要求される。それと同時に、自らの文化を大事にし、それを海外に発信する方法も考えなければならない。
個人的には今回のエコール・ド・プランタンを、挑戦と刺激、新たな出会いの場として記憶したい。この気持ちを忘れず、雨垂れ石を穿つように、こつこつと努力を重ねていきたい。