[申旼正]
2016 年3月5日から7日までの三日間、ルーマニアのブカレスト大学で開かれたEAJSの国際日本学シンポジウムに発表者の一人として参加させていただいた。今回のシンポジウムは、「日本文化の中心と周縁」というテーマのもとで、日本文化の中に見られるパワー・ゲームやヒエラルキー、その対立や衝突、交渉の問題に関する多様なアプローチを共有しようとする趣意から企画された。政治や経済、法と外交、思想や文学、芸術など、日本を研究対象とする様々な分野の研究者30人により発表が行われ、とても刺激的であった。
シンポジウム会場での集合写真 |
私は、二日目に「日本近代洋画の中心と周縁――山田新一(1899−1991)の「旅」、彼における内地と外地」というタイトルで発表を行った。植民地期(1910−1945)に朝鮮で活動した日本人画家(通称、在朝鮮日本人画家)たちの芸術と自己認識の問題を、当時の歴史や社会的状況と結びつけて多角的に考えようとする試みであった。植民地期に日本と朝鮮の間に存在していた、「内地(中心)」と「外地(周縁)」の地域的・社会的な階級性を正確に認識した上で、外地の内地人としての優越感と、内地の日本人に対する劣等感の間を彷徨った在朝鮮日本人画家たちの内面の混沌やアイデンティティの揺らぎを幅広く捉えようとした。支配者として考えられがちな在朝鮮日本人たちのアイデンティティを、従来とは異なる観点から見る可能性を提示できた点で評価された。
最終日に設けられた「ラウンド・テーブル」では、発表者と主催側の全員が集まり「ヨーロッパと日本における日本学研究 」というテーマで議論を行った。「日本学研究における地域間格差を縮める方法」や「〈周縁国〉における日本学研究の活性化の方法」に関しては、特に熱い議論が交わされた。上記の問題意識は、現在ヨーロッパで行われている日本学研究が抱えている問題でもあり、「日本文化の中心と周縁」を全体のテーマと定め、議論を進めようとした主催側の意図がうかがわれた。日本や日本文化に対するヨーロッパの若者たちの興味を、学問的なレベルまでに引き上げ、研究テーマとして深化させていくための環境構築の必要性や、日本学研究における国際レベルでの協力および活発な交流の必要性が強調された。
ブカレスト大学で本を選んでいる学生たち |
東京からブカレストまでは直行便が無く、ドイツのフランクフルトを経由し、片道で20時間近く掛かった。シンポジウムの日程もかなり詰まっており、身体的には疲れも感じられた。しかし、そこで出会った人たちの手厚い歓待に元気を取り戻し、研究者たちとの学問的な交流を通して、記憶に残る充実した楽しい時間を過ごすことができた。
この有意義なシンポジウムを企画してくださったブカレスト大学・日本学センター(Center for Japanese Studies, University of Bucharest)の皆様および準備に関わったブカレスト大学の学生の皆様、滞在中いろいろ手伝ってくださったブカレスト大学のNecula Irina LauraとLina Amcさんに、この場を借りて感謝申し上げたい。
ブカレスト旧市街 |