2012年5月23日水曜日

Ecole de Printemps, パリ大会に参加して

[三浦篤]

 2012年5月13日〜19日はパリにいた。今年で10周年を迎えた国際美術史コンソーシアム「エコール・ド・プランタン(あるいは春のアカデミー)」に参加するためである。この組織の沿革と内容、および一昨年のフィレンツェ大会、昨年のフランクフルト大会については、昨年まで活動していたUTCPで紹介したことがあるので、ここでは繰り返さない。
http://utcp.c.u-tokyo.ac.jp/blog/2010/07/miura-atsushi-on-ecole-de-prin/
http://utcp.c.u-tokyo.ac.jp/blog/2011/05/post-452/
簡単に言えば、世界の美術史研究者十数人で作っている非公式な親睦会のような組織で、毎年どこかの場所に1週間集まり、テーマを決めて数十人の大学院生に研究発表をさせ、教員も含めて濃密な交流を行う催しである。ただし、私以外は皆欧米の研究者なので、共通言語は英仏独伊の四つ。日本人にとってはハードルが高いが、昨年から正式に加わることができて、学生たちも英語やフランス語で発表している。
 今年も日本枠で2人、フランス枠で1人、日本人若手研究者が発表し、皆貴重な体験をしたと思う。私も司会の一部を担当した。この大会では、発表の内容や質はもちろん重要であるが、同じくらい大事なことは、その後の質疑応答や議論に対応、参加できるかどうか、コーヒー・ブレイクやカクテル・パーティーでさらに交流の輪を広げられるかどうかであろう。そのためには、単に外国語運用能力があればよいというものではない(むろん、それすらも簡単なことではないが)。美術史研究に対する幅広い興味と関心の持ち方、日本を大事にしながらもそのマージナルな位置を抜け出ようとする積極的なメンタリティの醸成など、実はさまざまな条件が備わっていなければ「国際交流」など絵に描いた餅にすぎなくなる。
 特に、今年の大会は「芸術と知 Arts et Savoirs」(http://www.inha.fr/spip.php?article3774)がテーマで、西洋文化の広がりの中でイメージの在り方を論じる発表が多かったので、元来文化を共有しない日本人にとってはさらに難度が高いという印象を受けた。言葉を換えれば、視覚文化研究(ヴィジュアル・スタディーズ)に近い方向性になっていたのだが、美術史学にとってこの道がすべてではないとはいえ、方法論的な多様性を踏まえて議論する必要がますます高まっているということである。
 いずれは、日本でも大会を開催したいと思っている。それまでに、若手研究者がレベル・アップしていることを期待したい。


2012年5月21日月曜日

エコール・ド・プランタンでの発表を経て

[松井裕美]

 今年度パリで行なわれたエコール・ド・プランタンの大会に、発表者として参加させていただく機会に恵まれた。私の発表の主眼は、ピカソの手による1907年の人体比率デッサンの解析と、同時代の油彩画への適応率の統計的分析であった。ここでは、外国語での学会発表において注意すべき点を、私自身の体験、反省点を交えながら記したい。
 大会の特徴を要約すれば、次の3点が挙げられる。まず、様々な時代や地域の研究発表が行なわれる点、次にフランスでは珍しく発表時間の規定が厳格である点、最後にコーヒー・ブレイクの時間に関しては例外なく延長可である点だ。最後の点に関してはフランス的であるというべきだろうか。


 言うまでもなく、フランス語で自らの研究テーマを余す所なく発表するには、規定の20分という時間は、とりわけ私のように発表初心者の学生にとっては短い。専門外の研究者と、専門的共通認識を共有する必要があるため、時間制限はより一層大きな問題となる。私の発表の場合、研究背景の説明、統計的手法の妥当性、データ分析の結果を紹介するにあたって3つの要素の割合を調整する必要があったのだが、後者2つを丹念に説明した結果、より広範な文脈での議論に欠ける印象を与えてしまった。さらに規定の時間をオーバーしてしまったことも最大の反省点である。
 発表後にル・メン先生が個人的にご教授下さったように、エコール・ド・プランタンでは、研究の一部をそのまま紹介し見解の妥当性を証明するのではなく、むしろ問題の争点をより広い視点で解説することが求められる。つまるところ、本学会での発表は、発表者と聴衆の双方向的対話を生み出す契機として捉えるべきであったのだ。
 このために発表時間だけではなく、続く10分の質問時間と、コーヒー・ブレイクの時間を有意義に過ごすことが重要課題となる。質問時間では、専門的な知識の有無ではなく、同時代の思想との関わりへの問いなど、むしろ必ずしも専門分野に集約されない広い文脈での見解を述べることが求められる。これに対してコーヒー・ブレイクの時間には先生方や参加者との濃密な意見交換が可能となり、質問者と議論をより深めるような機会にも恵まれた。これは私自身にとって今後の研究の具体的指針を見直す非常に重要な契機となった。
 いずれこのような若手美術史研究者の国際的意見交換の場が日本でも築かれることを切に願っている。