2015年11月16日月曜日

「日仏交流を通した日本の美術史学の構築」


[三浦篤]

 そんなタイトルの論文の執筆依頼を受けたのは1年半前のことである。パリのINHA(国立美術史研究所)の雑誌Perspectiveの編集主幹をしているAnne Lafondからの要請。彼女は2012年にパリで開催されたEcole de printempsで事務局長の大役を務めた優秀な女性研究者で、18世紀美術史を専門としている。何を思いついたのか、最初は日本の美術史学のことを紹介してくれという話だったが、あまりに大きすぎるテーマに躊躇っていると、日仏関係に限定しても良いということで、それならばと引き受けて、Perspective最新号に発表することができた。« La construction de l’histoire de l’art au Japon à travers les échanges franco-japonais », http://perspective.revues.org/5700


 とはいえ、論点をかなり欲張ったので長めの論文になった。明治以来の日本における美術史学の成立過程と現状(西洋美術研究と日本・東洋美術研究が並立する歴史)、日本におけるフランス派美術史研究者の業績やフランス美術に関する展覧会の紹介、さらにはジャポニスム研究と日本近代美術研究に焦点を当てた日仏美術交流史研究の現在などだが、特に最初のふたつは欧米ではあまり紹介されていないので意味があるかと思う。


 
 海外で講演したり、シンポジウムに参加したりするたびに思うことだが、日本にはこれだけ質の高い研究蓄積があるのに(美術史のみならず人文科学全体について言えることだ)、日本語で書かれているというだけの理由で、グローバルな世界で知られていないのは本当に残念なことだ。もちろん、外国語による発信が容易でないのは当然だが、ケースに応じて様々な手立てを講じる(自分で発表する、通訳者、翻訳者を用いる)とともに、機会があれば日本語でも発表したいとも思う。外国語で発信するのと同時に、日本語の国際的存在感を高める努力があってもよいはずだ。また、外国語を使う場合でも、相手の母国語ではなく、双方にとっての外国語である第3の言語で話せば、ある程度対等になることもある(現在ドイツで開催中の展覧会「日本人の愛した印象派」で英語を使ったのはその例であった)。つらつらと、そんなことを考えるこの頃である。